薄桜鬼の小説を中心に活動していきたいと思っています。お気軽に拍手orコメントいただけるとうれしいです。
あまりに山崎と龍之介の友情が美しすぎてついに自家発電してしまいました。
以下恐ろしいほど黎明録のネタバレ含みます。
それでもおkな方のみ、下のほうからドゾー
「聲なき夢」
少し冷たさを帯びた風が、俺の髪を撫でる。空が嫌に綺麗で、見上げたその青さに俺はしばらく目を細めた。
一瞬、ここはどこだっただろうとぼんやり考える。そして、ああ、ここは鴨川だ。そして、これは夢だ。そう理解した。
懐かしい。井吹と喧嘩をして、殴り合って、そのあと互いの過去を打ち明けた、あの鴨川の河原。
隣には、やはり井吹がいる。あのときと変わらず、雑草の上にふてくされた顔で寝そべって、同じように空を眺めていた。まだ髪が長い。顔つきも随分幼かった。
「井吹、俺はきっともう直ぐ死ぬんだ。」
この頃の井吹が聞けば、全く意味が分からない言葉だろう。実際、井吹は意味が分からないといった顔で俺を見ている。いいのだ。どうせ夢なのだから。
「俺は、仕えるべき主君に仕え、その人の為に戦い、そして朽ちる。それが武士だと、ここで君に話しただろう?俺はそうやって死ねるのだから、もう未練などないはずだ。
なのに、今俺は無性に怖い。死が、怖くて仕方ない。」
相変わらず井吹はきょとんとしている。俺は構わず続けた。
「おかしいだろう?武士として死ぬことが何よりの至福だと思っていた俺が、それを恐れるなんて。」
そうだ。そのために俺は家を離れ、大阪から京にきたのだ。捨ててしまったものばかりで、その中には悔いが残る物もある。
そうだ。そのために俺は家を離れ、大阪から京にきたのだ。捨ててしまったものばかりで、その中には悔いが残る物もある。
「土方さんや近藤さん、新選組のために死ぬなら本望だと思っていたのに、いつの間にか欲が出たらしい。新選組の未来を見たくなった。君と共にまたこんな空を、新選組が切り開いた先で、見たくなった。」
あの頃の俺には、武士以外見えていなかった。だが、少しずつ視界が開ける度に、俺は焦った。大切なものが、生きたい理由が増えていく。
「だが、俺はもうすぐ死ぬんだろう。」
寂しさとは、なにかちがう。自分が最も愛した新選組の、まだ見ぬ勝利が見たい。それが叶わないとしりながら、望んでしまう贅沢。
「むなしい、な。」
「むなしい、な。」
そう。これは虚しさだ。井吹、お前なら分かるだろう?芹沢さんを助けるため、俺を振り切って八木邸に戻っていったお前なら。あの人がなにか土方さんたちに讃えられるような功績を残すのを、心のどこかで望んでいたんだろう?
「井吹、俺の分まで新選組の未来をみてくれと言ったら、お前は怒るか?」
言って、俺は井吹を見る。井吹は一瞬迷って、意味を理解しようと必死で首を傾げて、それから口を開いて、そこで俺は絶句した。
井吹の声が、聞こえない。
確かに話しているのだ。迷うように言葉を選びながら、少しずつ何かを伝えようとする。その仕草は以前の井吹そのものなのに、声だけが聞こえない。
そこで気づいた。
嗚呼、俺は、井吹の声を覚えていない。
彼の、井吹の声を奪ってしまったのは、紛れもなく俺なのに。あの時井吹を止められなかった俺のせいなのに。
それなのに、思い出せない。殴り合いをしたのも、2人で無言のまま鴨川で顔を洗ったのも、ここで互いの過去を打ち明け合ったのも、そのあと2人で屯所に帰ったのも、すべてちゃんと覚えているのに。話した言葉の一つ一つにいたるまで、すべて鮮明に覚えているのに。ああ、なのに、
俺が奪ってしまった君の声だけ忘れてしまったなんて!
酷い落胆に襲われ、その瞬間、まるで水の中から引き上げられるような感覚に頭が真っ白くなった。
いきなり体が熱くなり、どうしようもない痛みに声を漏らして、目が覚めたのだということに気づいた。船に乗ってからというもの、痛みで気を失うように深く眠り、そしてまた痛みによって目を覚ますと言うことを繰り返している。目を開けると、ぼんやりと霞んだ視界に松本先生が見えた。
松本先生も俺が起きたことに気づいたらしく、「おや」といった顔をする。
「昔の、夢を見ました…。」
「そうか。」
「松本先生、俺、は…もうすぐ、死ぬんですね…。」
俺は本当に性格が悪い。松本先生を困らせてしまうようなことを、なぜか口にしている。
松本先生は思った通り、その眉間に深々と皺を寄せる。
「そうさな…。お前さんの想像通りだろう」
やはり、松本先生は名医だ。こういった、いらない励ましをしないところは、医者として貴重とも言える。
「山崎君。頼みはないかね?」
「頼、み…?」
「頼、み…?」
「欲しいものでも、会いたい人間でも、わしが聞けるものならできる限り叶える。いってみなさい。」
俺は、靄のかかったような思考のなか必死に考えた。何がほしいか、誰に会うかではない。会うべきか否かを考えた。
船に乗ってから、一度も会いに来ない親友。彼の性格を考えれば、多分俺が衰弱していくのを見るのがつらいんだろう。なら、いっそ会わないほうが良いのではないか。
俺は暫く悩み、そして賭けた。彼がもし来てくれたら、俺の未練を彼に託そう。だが、来てくれなかったら、その時は潔く武士として義に散ろう。
そうやって俺は心を決め、苦しい中で口を開いた。
「井吹、に…」
「井吹に、会わせてください。」
欲張りになっていく自分が怖くてっていう山崎君の話。
本当に大切なものは、死ぬ直前にならないとわからないらしいです。
欲張りになっていく自分が怖くてっていう山崎君の話。
本当に大切なものは、死ぬ直前にならないとわからないらしいです。
PR
この記事にコメントする
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
カウンター
最新トラックバック
プロフィール
HN:
蛙
性別:
女性
職業:
妄想
趣味:
PC、イラスト、読書、ゲーム、小説執筆など
自己紹介:
薄桜鬼、BASARAを主食として時に雑食。
ついった https://twitter.com/#!/kawazu84
ピクシブ http://www.pixiv.net/member.php?id=1406302
ついったには鍵がかかってますが、リアルの知り合いにばれないためなので報告していただければこちらからもリフォローするとおもいます。
読み方はよく間違われますが「かえる」ではなく「かわず」です。
ついった https://twitter.com/#!/kawazu84
ピクシブ http://www.pixiv.net/member.php?id=1406302
ついったには鍵がかかってますが、リアルの知り合いにばれないためなので報告していただければこちらからもリフォローするとおもいます。
読み方はよく間違われますが「かえる」ではなく「かわず」です。
ブログ内検索
ブログパーツ