薄桜鬼の小説を中心に活動していきたいと思っています。お気軽に拍手orコメントいただけるとうれしいです。
前回書いた龍+山の「聲なき夢」の続きというかアナザー。
山崎が死んだあとの龍之介を船の甲板でみつける大人なお兄さん左之さん。
腐向けで書いたつもりはありませんが、受け取り方によってはちょっと入ってるかもしれません。
あと言わずもがな女の子は出てきません。その上暗い。救われもしない感じ。
それでもよければ下からドゾー。
「聲なき現」
甲板に立ったまま、もうずっとそうやって潮風にあおられているそいつに、俺は黙って近づいた。
数年ぶりに見るそいつの背中はいくらか大きくなっているように見えたが、以前より頼りない感じがする。そんな、すっかり変わっちまったそいつの肩を、俺はまるであの頃と変わらない仕草で叩き、「よう」と声をかけた。驚かすつもりはなかったんだが、そいつは逆にこっちがびっくりするほど飛び上がって、それからおずおずとこちらを振り返る。
「何だお前、こんなところで。まさか医者が船酔いってわけじゃねえだろ?」
笑いかけると、そいつは、龍之介はばつが悪そうに目をそらした。こいつはきっと、新選組の人間にはあんまり会いたくなかったんだろう。しばらくためらって、それからいきなりきびすを返す。
俺も性格が悪い。その腕を掴んで引き止めると、龍之介は露骨に嫌な顔をした。やはり声は出ないらしい。当たり前だ、生きているだけでも奇跡なほど、あの傷は深かった。俺も最初に見たときはもう駄目なんじゃないかと思ったくらいだ。
喉に巻かれた包帯は多分、治療のためではなく傷を隠すためだろう。以前の龍之介だったらこんな包帯をするより傷を丸出しにしていたほうが印象にあっていたが、髪を短く切りあの頃よりおとなしい服装をしたこいつはすっかり垢抜けてしまって、その包帯でさえ陰のある表情に似合って見える。
それだけ、こいつの顔つきは変わっていた。
「待てよ。」
苛ついたように龍之介が俺をにらむ。そんなもの怖いはずはないのだが、どこか痛々しさを漂わせていて俺はぞくりとした。理由は多分。
「目が赤いぜ。」
指摘してやると、龍之介はしまったといった顔をして俯いた。そんなことをしたって駄目だ。泣きはらして腫れぼったくなった目を、俺はもうしっかり見てしまった。
俺は、そいつの目にまた涙がじわりと浮き始めたのを見て、昔のように頭をわしわしと撫でてやった。以前だったら絶対に「撫でるな」「さわるな」「ガキじゃあるまいし」と飛んできた反撃は今はまったくない。ただ着物の袖で顔を隠し、目をぐしぐしと擦っている。
「おいおい、そんなことしたら余計赤くなるぜ?ほらよ、」
俺が強引に龍之介を抱き寄せる。抵抗は帰ってこなかった。
「これならいいだろ?」
頭を俺の肩に押し付けてやると、龍之介の喉がひゅっとなった。じわりとこみ上げてきた何かを押さえつけられずに背中を震わせて、まるで留め具か何かが外れたように泣き始める。
俺は黙って背中を摩ってやった。それだけが俺の役割に思えた。
涙を流して泣いているのに、その甲板には泣き声はない。ただ波の音が聞こえるだけだ。もうこいつには、声を上げて嗚咽することも、そうすることで悲しみを吐き出すことも、誰かにこの思いを吐露することもできない。こいつには、その手段において一番大切な、声がない。
声を上げて子供みたいにわあわあ泣けたら、こいつにとってどれだけ幸福だっただろう。その声を奪ってしまったのは、新選組だ。けれど皮肉にもその涙の理由は、新選組の人間の死。
それでも俺は、こいつを別段不幸だとは思わない。
こいつは人並みの幸せを与えられたはずだ。いまどき親兄弟すら分からず泥まみれになりながら一人孤独に暮らす人間なんてそう珍しくない。だがこいつは食うには困らず、寝場所にも困らず、何より、大切な友を得た。
不幸なんじゃない。ただ、運がなかった、それだけだった。
それだけの理由で、こいつはいまだ泣くことも許されない。折角得た幸福を持続させるだけの運を、こいつは悲しいほど持ち合わせていなかった。
俺自身こいつに罪悪感を抱いていたのかもしれない。こうなる前に、黙って逃がしてやることもできた。俺だけじゃない。浪士組であり新選組である人間みんなの責任だ。
だから新選組の幹部たちは全員、罪滅ぼしのために千鶴をかわいがってやるのだろう。二人目の龍之介を作らないために。
ただ俺は、一人目の龍之介をあやすようにして、ただ何をするでもなくその悲しみの拠り所になってやるだけだ。もうこいつには同情しか向けられない。かわいそうだと思わないのに、だ。俺はそうやっていつまでも自分の自己満足の、罪滅ぼしのためだけに、死んじまうんじゃないかと思うくらい肩を震わせ声もなく泣き続けるそいつの背中を摩っていた。
龍之介の口が、友の名を呼ぼうと動き続けるさまに目を背けながら。
結局龍之介には同情以外向けられないことが悔しい左之さん。
彼は結構冷静で冷たい。
千鶴とばっちりでごめんねーorz
声の出ない龍之介君がおいしくて仕方ない。元幕府の医者で確かな腕を持つ良順先生とイケメンで若いちょっと陰のある龍之介君がいるあの病院はきっと行列ができる。そして私も並ぶ。
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PC、イラスト、読書、ゲーム、小説執筆など
自己紹介:
薄桜鬼、BASARAを主食として時に雑食。
ついった https://twitter.com/#!/kawazu84
ピクシブ http://www.pixiv.net/member.php?id=1406302
ついったには鍵がかかってますが、リアルの知り合いにばれないためなので報告していただければこちらからもリフォローするとおもいます。
読み方はよく間違われますが「かえる」ではなく「かわず」です。
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