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30日にうpとかほのめかしておきながらフライングすみません・・・。
明日はどうも忙しくてうpできそうにないので、今日うpします。

内容は、千駄ヶ谷で療養中の沖田と、そこに通う龍之介の話。
土方さんルートに沿っています。シリアスです。そして何を隠そう今回、今までの作品で一番長いです。

一度はあきらめかけたり、「クソ時間が足りない!何で沖田あと一週間生きてくれなかったんだ!」とか騒いだりしましたが、なんだかんだでフライングできるくらいには仕上げることができました。
これも皆さんのお陰です。ありがとうございます。

それでは↓よりどうぞ。



い花 黒い猫 そして




猫が啼いた。
よく縁側に来る、僕の残したごはんを強請ったり布団に勝手に入ってくる子猫だった。
その猫が、今日も縁側で啼いていた。
 
「君ってほんと、暇なところだけは昔からかわらないんだね。こんな辺鄙な場所に毎日来るなんて。」
ちょっと馬鹿にしたら、井吹君は面白いくらいの仏頂面になった。まあ、昔みたいに言い返して喚き散らさないあたりちょっと成長したみたいだけど。
今僕の住んでいる小さな家は、周りに田畑しかないような鄙びた場所だった。労咳が進んだころから、僕はここにずっと閉じ込められている。前はちょくちょくみんなが遊びに来てたけど、最近はあんまり来なくなった。この家にいるのは、僕と世話をしてくれる老婆と、出入りしている井吹君。それからたまにやってくる黒猫だけだ。
「あーあ、ほんとつまんない。」
彼がまた首を傾げる。何か話すときは紙と筆で伝えるけど、短い言葉とか身振りで伝えられることはうまく伝えてくることが多かった。松本先生とか山崎君あたりは、彼の口の動きだけでだいたいの言葉を理解できていたけど、あいにく僕には分からない。
「面白みがないってこと。君がいても、ひとりで寝てるのと全然変わんないよ。」
僕がそう言うと、今度は井吹君は帳面に『しょうがないだろ 喋れないんだから』って書いて、それからすこし悩んで、『何すれば暇つぶしになるんだ』って書き足した。
「何しろってわけじゃないの。君がつまらない人間なのは前からだし。たださ、折角来てくれるなら君じゃないほうが楽しかったなーって。」
『悪かったな、つまんない人間が来て』
ぶっきらぼうに書いた文字は、意外にも整っていた。井吹君は結構達筆らしい。なんか不似合いでむかついた。別に僕が悪筆だからねたんでるわけじゃない。ただなんか、井吹君に人より秀でた点があるのが気にくわなかった。
「君ってさ、医者なんでしょ、一応。なんかしてみてよ。」
『医者は芸人とは違うぞ 俺はまだ見習いだし』
「見習いって、何年松本先生の後ろくっついて歩いてんの?普通ならもう一人前になってもおかしくないいじゃない。」
『俺は一人前にはなれない しゃべれないし』
ほんと、つまんない。暖簾に腕押しってこういうことだとおもう。前ならもうちょっといじめ甲斐もあったしノリもよかったのに。
「じゃ何で毎日通ってくるの。暇なの?」
問いかけたら井吹君はちょっと怒ったような顔になって、それからいきなり僕の布団の下に手を突っ込んだ。
そんなにもぞもぞする事もなく、すぐに敷き布団から這い出てきた手には、見覚えのある小さな包みがたくさん。
僕の大嫌いな、薬の包みだ。
『こういうことをするからだ』
筆を走らせた井吹君は、枕元においておいた湯呑みと薬を僕に突き出してくる。
「あ~あ。見つかっちゃった。」
『ちゃんと飲めよ  ただじゃないんだぞ』
「やだよ。だっておいしくないもん。」
『薬が美味いはずないだろ』
井吹君はびっくりするほど素早く僕の身体を起こして、口を開けるよう催促してきた。
「あ、そうだ。花に水をあげないと。」
外には花がたくさん植えてある。この家を貸してくれている植木屋の人が植えてくれたものだ。
といってもまだ花は咲いていない。蕾はたくさんあるし最近は暑くなってきたからもうじき咲くんだろうけど、とりあえずまだ開いた花は無かった。
僕の言い訳に井吹君はしばらく不服な顔をしていたけど、やがて僕が羽織を羽織ったあたりであきらめてため息をついた。
『俺はそろそろ帰るから あんまり出歩くなよ
 飯ちゃんと食って薬飲んで 布団被って寝ろよ』
「分かってるようるさいな。さすがに君みたいにヘソ出して寝ないから。」
『薬ちゃんと飲め』
「はいはい。」
逃げるように庭に出ると、井吹君は立ち上がって帰る準備をする。
そうしていつもの紫色の風呂敷を持ち上げたあたりで、ふと外に視線を投げた。
彼の視線の先には、燃えるように真っ赤な茜の空。その空が僕にはどこか、血みたいに見えた。
井吹君はその茜空を、惹かれたように見つめ続ける。
その焦がれるような視線が、僕は大嫌いだった。
 
 
毎日僕の住む家にやってくる井吹君は、そのたびに薬を飲ませてきたり部屋を勝手に片付けてきたり猫と遊んだり、そしていきなり静かになってぼんやり遠くをながめたりして、帰って行く。
そして今日も例のごとく、井吹君は紫色の風呂敷を片手に夕方やってきた。
僕は庭の花に柄杓で水をやっていたから、てっきり「寝てろ」って叱られるのかと思ったけど、彼はどういうわけか黙って僕の横に立つだけだった。
「そこ、邪魔なんだけど。水かけるよ。」
柄杓を構えて笑ってみせると、井吹君はあわてて一歩後ろに下がって、それから花壇の花を不思議そうに指さした。
「何?君、鳳仙花も知らないの。」
馬鹿にしてみると案の定井吹君はおおきな溜め息をついて、面倒くさそうに帳面と持ち運び用の筆を出した。
『咲いてなかったから分からなかっただけだ そのくらい知ってる 
なんでこの花なんだ 爪にでも塗るのか』
「え、なんで井吹君がそんな女の子の知識持ってるの?まさかとは思うけど、君そういう趣味とか」
言い終わる前に首をぶんぶん振って全力で否定された。
「なんだ。つまんない。じゃ何?ついに恋人でもできたとか?」
『ちがう 昔原田に教わった』
まあそうだよね。こんな無愛想でひねくれてておまけに声も出ない人に恋人なんていたら、それこそつまらないし、おまけにむかつく。
有り得ないのにあえて聞いたのは、べつにその知識の根底が知りたかったわけじゃなくて、ただ、いつも遠くを見つめて呆けたみたいになるときの目が、どこか恋を思い返すような、変な焦りみたいなものがあったからだ。
「ま、左之さんなら知ってそうだよね。」
言ってから、言わなきゃよかったと思った。
言うんじゃなかった、昔話なんて。しかもこんなきれいな夕日の日に。
だってこういう話をすると、彼は。
 
「ねえ。」
 
ずっと向こうを眺める井吹君は、僕の言葉なんかに気づかない。
「ねえ、井吹君」
ああもう、その目だよ。その目が嫌いなんだ。まるできれいな空へ飛び立つ瞬間に足を掴まれた鳥みたいな、焦れて泣き出しそうな、狂気じみた恋をする少女みたいな、
僕のことなんか映らない、その強い目が!
「ねえってば!」
叫んだ瞬間に喉が跳ねて、そのまま肺を裏返すみたいに咳き込んだ。それでようやく井吹君は僕の方を向いた。
倒れそうな僕の体を、井吹君は慌てて支えてくる。僕は、こんな奴に体を預けるのが嫌でその腕を振り払った。よろけて倒れて土煙が舞って、それがよけいに僕の咳を誘った。
井吹君はおろおろと僕の背中をさすってくるけど、出来ることならそれですら止めさせたかった。
やがてようやく咳止まって、それから無性に悔しくなる。なんで僕、こんな相手にむきになってるんだろう。馬鹿みたいだ。
「なんなの」
体が熱い。多分、熱がある。それでも僕は乾いた土から立つ気にはなれなかった。
「君、いつも何みてるの」
井吹君は驚いた顔をして首を傾げてくる。彼は口が聞けないから、自分の意志を伝えるためによくこの動作をするけど、今回は本当に、自然と首を傾げているみたいだった。
「君さ、ここに来たくないんでしょ。」
え、と井吹君の口が言葉を生み出さずにそう言う。
その「え」は、検討がつかないという意味なのか、それとも、図星をさされたからか。
「こんなところに居たくない、どこか違う所に行きたい、っていつも思ってるんでしょ?
ならはっきり言えばいいじゃない。労咳病みの世話なんてしたくないって…!」
井吹君は必死になって否定した。声の無い叫びが何を言ってるのかは分からなかった。
「じゃ何だっていうの?!今の君に、腑抜けみたいになるくらい行きたいところでもあるっていうの?!」
声を荒げたせいで喉が痛い。胸が嫌に痛んだ。それでも、井吹君が理由を吐くまで叫ぶつもりだった。
けれど井吹君は僕が二の句を上げるより先に、地面に落ちていた筆と帳面をとった。
『ここに居たくないわけじゃない ただ 行きたい所はある』
相変わらずどこかのお姫様みたいに綺麗な文字は、いつもより細くて小さかった。
「どこへ行きたいの。」
僕の言葉に、その細い字は躊躇うみたいにひょろひょろと書き足される。
『新選組のいるところに』
「…なにそれ。」
『山崎と約束した 新選組を最後まで見届けるって だから 土方さん達に合流したい 一緒に戦いたい』
馬鹿みたいな理由だった。
あんなに、武士は嫌いだとか、刀は持たないとか言ってた君が、戦いたい?そんなの矛盾してる。
『山崎との約束は果たしたい でもあいつだったらお前を置いて行ったりしない 今のお前はおいていけない  だから悩んでた』
「…君は昔からそうだよね。いつも山崎山崎って、山崎君ばっかり。」
図星を指された井吹君の顔が強張る。
そうだ、いつだって井吹君は山崎君のことばかり。新選組にいた頃から何も変わってない。それは山崎君が死んでもなお変わらない。山崎君が何をしてくれたって言うの?あの雨の日に君から声をうばったのも山崎君だし、今こうやって君に重荷をしょわせているのも山崎君なのに。
そこまで井吹君がするような何をくれたっていうの?
「つまり君は、僕が死ぬのを待ってるんだ。
だってそうでしょ。向こうにはやく追いつきたいけど、僕を置いていくのは忍びないから、僕が死んでからあっちと合流しようって、だから早く死んでくれないかなって、そう思ってたんだよね。」
彼の目が、子供みたいに見開かれた。
それからすぐ口もぱくぱく動いて、あんまり早口だったから何て言ったのかは分からなかったけど、その形相から「そんなはずないだろ」とか「なにいってんだよ」とか、そういう感じの言葉を吐き出していたのは分かった。
井吹君が怒っていることがすぐに分かった。
けれど僕はかまわず続ける。
「そんなに心配しなくてももうすぐ死ぬから。ほら見てよ、こんな腕じゃ刀も握れない。それに君だって医者なんだからわかるでしょ。毎日みたいに血を吐いてるような人間がどのくらい生きられるかなんて、今こうやって君に話してるだけでも息が苦しいのに、僕が来年も再来年もここにいると思う?
きっともうすぐ僕なんて死んじゃうんだよ。だからそろそろ土方さんたちを追いかける準備でもしてたら?そうすれば、」
言い切る前に、頬を目が覚めるような痛みが襲った。井吹君に殴られた。
彼は泣きそうな目で何かを叫んで、それからぼろっと子供みたいに涙を落とした。声を持たないその涙は、泣くというのとは違って見えた。
井吹君の口が、また何かを叫ぶ。やっぱり僕にはその言葉がなんなのか分からなかった。
「・・・・・もう、こないで。」
ふらつく足で立ち上がると、くらっと一瞬めまいがした。でも今倒れたら井吹君の顔を見なきゃいけない。だからどうにかしてふみとどまった。
「帰ってよ。」
ず、と彼が洟をすする音がする。それでもそこから動く様子はなかった。
「早く帰ってよ!!!」
より大きく叫んで、ようやく井吹君は砂利をざりざり鳴らして向こうに歩いていった。
彼の足音が聞こえなくなってすぐ、咳が喉をついてあふれた。すぐに血が滴る。
僕の背中に、猫が啼いた気がした。
 
 
 
 
にゃあ、と。
縁側に座る黒い影が強請るように啼く。
「帰ってよ。」
出した声があんまり細くて情けなかった。考えてみればもう数日、まともに言葉を発していない。
僕の言葉なんて通じないのか、それとも分かっていて馬鹿にしてるのか、猫はまた小さく啼いた。
「こないでよ。」
この家には、もうこの猫と僕しかいない。当たり前だけど井吹君はあれから来なくなったし、世話をしてくれていたおばあさんには数日前に暇を出した。
だから、もうこの寂れた家に足しげく通っているのは、障子の向こうにいる小さな黒猫だけだ。
そう思うと中へ招き入れてあげたい気もしたけれど、第一動くのすらつらい。
「・・・・ッ、」
ほらまた咳が出る。胸が重い。そうしてすぐに血を吐く。彼がいなくなってからずっとそうだ。
もう立つことも、起き上がることすら苦しい。彼が僕の気力を持っていってしまったんだろうか。それとも、彼自身が僕の気力だったのかもしれない。
そういう発想にいたるほど、僕の身体はボロボロだった。
それなのに猫は毎日やってくる。日が落ちるか落ちないかの頃に必ず現れて、同じ場所に座る。
にゃあ。
また猫が、今度はすこし苛立ったように啼いた。
「ここに来てもご飯なんてあげないよ。そこを開ける気もないし。」
もう、この障子は開けたくなかった。
水をやっていない鳳仙花は、きっと花をつけることもなく茶色に枯れてしまっている。鳳仙花はもともと強い花だけれど、もう随分ほったらかしにしているんだから、きっと無残に乾いてもう二度と元には戻らない。
それを見るのが、怖かった。
「もう帰ってよ。」
にゃあ。
「やめてよ」
にゃぁおぅ。
「早く帰ってってば。」
にゃあう。
「うるさいなあ・・・!」
この猫がひどくわずらわしかった。どこまでも、いつまでもしつこく僕に声をかけてくる猫がたまらなく憎かった。
僕がいつだって求めてたのはこういう人間だから。何を言っても何をやっても離れていったりしない、近藤さんみたいな、家族みたいな人間。
だから猫がそういうことをするのが、すごく生意気に思えた。
 
にゃあ。
 
「うるさい!!」
とたん、身体の辛さも胸の重みも、庭の鳳仙花のことも忘れて、障子を開け放っていた。
殺してやろうと思った。刀なんて使えなくても、絞め殺してしまえばいい。この生意気な猫を死なせてしまおうと思って、障子を勢いよく開けていた。
 
開けてまず目に入ったのは、赤だった。黒猫の黒じゃなかった。目を刺すような、血のような赤。
空が赤くて、花が赤くて、照り返しを受けた全てが赤かった。
そうしてその花の前で柄杓を持つ影と、黒猫だけが真っ黒だった。
 
にゃあ。
 
猫がごろりと縁側に寝転がる。甘える猫はふくふくと丸くて、僕が予想していた飢えた姿はどこにも無かった。
「何で」
ほとんど無意識にこぼした言葉に、逆光に黒く縁取られた彼が、井吹君が、柄杓を取り落とす。
「何で君がいるの。」
井吹君は黙っている。声が無いのだから何か話し始めるわけも無かったけど、多分声があっても彼は黙っていたんだとおもう。
日が少しずつ傾いて、きつい逆光が和らいでいく。井吹君の顔が見えるようになっていく。でも、僕は見たくなかった。
彼が、泣いているんじゃないかと、怒っているんじゃないかと思った。
彼に嫌われてもかまわないはずなのに、それが怖かった。
嫌われてもかまわない?違う。僕はいつだってそうだった。嫌うのは簡単で、すぐに「君なんて大嫌い」って言って笑って、でも、いつだって嫌われるのはすごく怖かった。
そんな僕の心中をよそに、真っ赤な夕日が落ちていく。昼間の穏やかさも忘れて、あわてたように隠れていく。
そしてついに、逆光が消えていった。
 
井吹君は、笑っていた。
その顔は喜んでいるようにも、呆れているようにも、泣いているようにも見えたけれど、ただ、彼がこんなわらい方をするのがちょっと可笑しかった。
「なんだ、そんなに鳳仙花が気になってたの?」
障子に背中を預けると、それまで忘れていただるさが少しずつ蘇ってくる。咳を吐き出すと、井吹君は音もなく僕の横に来て背中を摩ってれた。ひさしぶりの温かさが、すこしくすぐったかった。
「花、枯れちゃったかと思った。」
しっかり咲いた花を見て小さく言うと、そんなつぶやくような言葉にも彼はいつもの帳面と筆を出して返事してくれた。
『あのばあさんに 頼めばよかったのに』
「もうあの人いないんだ。帰しちゃった。」
井吹君が、ぽかんと口を開けた。どうやらこの家にしばらく前から僕一人だったってことを知らなかったらしい。
しばらく驚いて目をぱちぱちさせて、それからちょっといじけて目をそらした。
『花の世話ばっかりしてた俺が ばかみたいだ』
「そうだよ。ていうか何で気づかなかったの?普通気づくでしょ。ほんと、君って馬鹿だよね。」
『帰れとかもう来るなとか言ったのは誰だよ』
怒りながらも、彼はずっと僕の身体を支えていてくれた。背中を障子に、右側を井吹君にあずけて、だからそんなに具合の悪いのは気にならなかった。
『じゃあ飯も食べてないのか』
「だって食欲ないから。」
おばあさんが作りおきしてくれたやつとかは食べてたけど、そんなにまともなものは食べてなかった。正直、ご飯のことなんていわれなかったら気づかなかった。
僕がほとんど食べていなかったことにそんなに驚いたのか、怒っていた井吹君が呆れ顔になる。
『今からつくってやるから 食べるだろ』
「食べる。」
僕が応えるか応えないかの間に、もう彼は立ち上がって奥に入ろうとしていた。
本当、行動が早いところは昔からおんなじだ。
「ねえ、井吹君。明日もご飯、つくってくれる?」
振り返った井吹君が、いつもの笑顔で、決して満面じゃないあの笑顔で笑う。
笑って、口を開いた。

――ずっと そばにいてやる。
 
蕾をたくさんつけた鳳仙花を前にしていたときには決してわからなかった、井吹君の声の無い言葉。
それが、言葉より分かるようになったのが、すこしうれしかった。
「ずっとじゃなくていいよ。僕が死ぬまででいいよ。」
きっともう僕はすぐ死んじゃうんだろうけど、それでもいいんだ。井吹君が育ててくれたおかげでこうやって鳳仙花の花を見られたし、一番ほしかった言葉がもらえたから。
 
宵闇の中でも目に痛いほど赤い花。その花を眺めながら座る縁側に、いつのまにか黒猫の姿はなかった。



沖田、大変書きやすいです。
本当は左之と土方さんの命日にも何か書こうとしたのですが・・・もうしわけないですorz
ホウセンカはまだ5月じゃ咲いてないんじゃね?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、旧暦で5月30日なので、現在の暦ではもう7月なんで、大丈夫です。
実際五月だと龍之介が江戸にいるか土方さんおっかけちゃったかでちょっと怪しい時期ですが、まあそのへんはちょっとスルーしていただいて。
なぜホウセンカかというと、花言葉が大変沖田だったからです。「私にさわらないで」。まさに人見知りな沖田君そのものです。
いちおうホウセンカと猫はそれぞれイメージがありまして、ホウセンカは沖田の中の新撰組の記憶の象徴、黒猫は沖田の寂しさの象徴です。
それと、近藤さんの名前を出したのは、近藤さんがもう死んでいることを龍之介が隠しているから。多分本人が気にしないうちに「沖田には近藤さんの分も面倒見てやらないと」と考えているんでしょう。
あと言わずもがな龍之介が夕日でぼけーっとしてしまうのは、「山崎と見た夕日」を思い出しているから。あの殴り愛のあとのスチル、綺麗な夕日でしたよね。
私の中では龍之介と夕日は気っても切れない関係です。あの夕日のなかで龍之介の運命が変わったといっても過言ではないでしょう。
ホウセンカが咲くのは6月の終わりごろから。沖田の現在の暦での命日は7月19日。おそらく沖田はこれからあと半月も生きることができませんが、彼の最期が幸せであればと願います。

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薄桜鬼、BASARAを主食として時に雑食。
ついった https://twitter.com/#!/kawazu84
ピクシブ http://www.pixiv.net/member.php?id=1406302
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読み方はよく間違われますが「かえる」ではなく「かわず」です。
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